「あ~ん、ロココ様まだかしら?もうそろそろお帰りになる頃よね。」
「今日は愛の日ですもの、次界政務庁も残業しないはずだからもうすぐいらっしゃるわよ。でももしかしてもうお帰りになったのかしら?」
「そんなことないわよ。今年こそは私達の本気を受け取ってもらわなきゃ!二人とも、くじけちゃだめよ。」
「も~分っているわよ、聖華士。ちょっと言ってみただけじゃない。」
女三人寄れば姦しい。まさにそのとおりの光景が目の前で30分以上繰り広げられおり、大門魔はいささかうんざりしていた。
本当は、聖ウォーマン達をさっさと追い払ってしまいたいのだが、敷地内に侵入しているわけでもなく、下手に注意すれば10倍になって返って来そうなので、ずっと我慢しているのであった。
「私のチョコ、受け取ってくださるかしら~?」
「ああん、聖華士ずるい、三人で渡すって約束したんだから抜け駆けなしよ!」
「そーよ、聖澄士の言うとおりよ。三人で力を合わせて手作りしたんだから、渡すときも一緒よ。」
「も~分っているわよ、聖喋士。ちょっと言ってみただけじゃない。」
(・・・まーた同じこと言ってら。)
大門魔は、アンドロココ様には悪いが、さっさと出てきてこの茶番を早く終わらせてくれないものかとため息をついた。
しかしよく考えると、あの天使様が鼻の下を伸ばしてチョコを受け取るとは思えず、ましてや背後にはシヴァマリア様が控えているのであるから、ただ事で済むとは思えない。
今日、誰からもチョコをもらえていない自分もかわいそうだが、好意を押し付けられ災難にあうアンドロココは、もっとかわいそうなんじゃないかという気がしてきた。
「・・・だから、ね、だめもとで・・・ほら、・・・。」
「・・・あの~、ロココ様まだお帰りになってませんよね?」
「私達、ちょっとロココ様に用事があるんです。だからお帰りになってないか知りたいんですけど、分ります?」
(げ、俺に聞くなよ。変なとばっちり受けたくねー・・・。)
「え、え~とだな、帰宅したかどうかは、わ、分らねーんだよ。」
「「「分らない?どうして?ずっとここで見張っているんでしょ?仕事してないの?」」」
「いや、えーと、だ、・・・そーだ、規則なんだ。おエライ方の出退勤について部外者に話ちゃあいけないんだ。」
「「「ええ~、そこを何とか教えてよ~~~!!」」」
何とかと言われても、と大門魔は頭を掻いた。確かに規則に書いてあるので、嘘は言っていない。だが、このままでは益々煩くなるに違いないので、適当な事を言って追っ払ってしまおうと考えた。
「帰ったかどうかは話しちゃいけないが、・・・あー、いつも残業が無い時は18時位に帰宅しているみたいだぞ。そうそう、今日は確か裏門から出勤してきたって言うから、帰りももしかしたら・・・。」
「「「裏門ね、分ったわ!」」」
聖ウォーマンはあっという間に裏門へ走っていってしまった。
礼も言わないで、失礼なやつらだ。と大門魔は思ったが、適当な話に礼を言えというのもおかしな話なので、とにかくやっと静になったとほっとした。
ふと入り口を振り返ると、噂をすれば何とやら、話題の次界創造主がひょっこり顔を出しこちらへやって来た。
「大門魔、寒い中お疲れ様です。」
「いや、任務っすから・・・。あの、いくらなんでもそりゃ目立つんじゃ・・・。」
アンドロココは、ロングコートに帽子、マフラー、マスクの完全防備で、隠れるというか怪しい格好だ。聖ウォーマン達に気づかれたくないのは分るが、これでは却って見つかるのではないだろうか。
「えーと、今日は非常に寒いですし、ちょっと風邪気味なのもで、帰宅までに誰かにうつしたら大変ですから、誰にも会わないで帰ろうと思って。・・・あ~、ごほっごほっ」
「・・・そうっすか、大変ですね。大将に会いたがっていた女どもが居ましたが、・・・ほとぼり冷めるまで適当にあしらっておきますよ。邪、じゃなくて、えーと、うつるといけないですから。」
「・・・ええ、助かります。・・・あとで守衛室にお酒でも届けさせますね。」
「ありがてえ、あ、もうそろそろ行った方がいいと思いますぜ。戻ってきたら面、いや、うつっちまいますから。」
「そうですね、では。」
アンドロココは風邪引きかけとは思えない素早い足取りで次界政務庁を後にした。
(いらないとも言えず、避けてるとも言えず、・・・おエライさんってのは本当に大変だなあ。)
その後姿を見送りながら、しばらくしたらまた面倒な3人が戻って来るだろうが、チョコよりも嬉しい酒が手に入ることになったし良しとしようと大門魔は思った。