マリアは明日までの未済書類を手に持ち悩んでいた。
(しまったな・・・、視察前に聞いておけば良かった。しょうがない、明日朝イチで聞くしかないな。あ、そういえば・・・。)
このところ、マリアは週1回ペースで次界の色々な施設を視察している。
復興されつつある各地の住宅地、生活インフラ施設、学校、TV局、警備隊、商業施設等々、視ておかなければならない場所は山ほどあるのだ。
桃祭りである今日は、聖母マンマの託児所に訪問した。ロココと二人で視察することもあるが、今回ロココは別の仕事があったので、マリア一人での訪問だった。
聖魔和合からもうすぐ半年。次界では、復興作業が着々と進んでいる。特に都では多くの建物が建設中で、それに従事する人が集まって来ている。
その為、衣食住の需要が高まり、それに関する商売も益々盛んになっているのである。そこで需要が出てきたのが託児所だ。
就学前の幼い子供を持つ親は、仕事に育児にと負担が大きい。そこで都に託児所を開いて、日中商売のために子供を見ていられない親に代わって、子供を預かり世話をしている。
次界政務庁には、こういった子供を預かってくれる託児所をもっと増やして欲しいという要望が集まって来ている。政務庁としても、当初の予定よりも早くはあるが、託児所の増設は予定していたことだったので、さっそくマリアが訪問する運びとなったのである。
施設の現状の確認をすること、そして今ある託児所の拡充や、各地への設置に向けて、聖母マンマの協力を取り付けるのが今回の視察の目的であった。
マリアは、責任者の聖母マンマに案内されて施設を見学し、他の保育士達の仕事を体感するために、子供達に混ざって、桃祭りの折り紙をしたり、絵本の読み聞かせたりなどをしたのだ。
そして、一緒に昼食を取ったり近くの小川に人形を流しに行ったりと、中々楽しい時間を過ごしたのだが、その後の仕事が思ったように進まなかったので、仕方なく夕食後に処理しようと自室に持ち帰っていたのである。
ロココが担当している案件について確認しなければと思ったと同時に、今日は朝食の際に顔を合わせたきり、ロココに会っていないことに気がついた。ロココも午後から視察で外出していたのである。
もう21時を回っているので、さすがに夕食を取って自室に戻っているはずなのだが、・・・よく考えると、まだマリアの所に顔を出していないのだ。
特に何かルールがある訳ではないが、この仮庁舎に入ってから、夕食が一緒でなかったときは、大抵帰宅の挨拶がてら相手の部屋に顔を出す習慣になっている。
今日は一体どうしたのだろうか。なぜまだ顔を見せていないのか、気になりだしてきた。
(あいつ、今日は聖Vヤマトのところに警備隊の視察に行っていたはずだが、その後飲み会になって、どんちゃん騒ぎでもしているんだろうか?)
視察後、神帝達を集めて飲み会をしている可能性は大いに有る。しかし、そんな時も、今までちゃんと連絡を寄越して来ていたのだ。
子供でもあるまいし、連絡がない位で心配するなんてどうかしていると思う。仮にも次創造主、神帝も一緒にいるし、そもそも一人で放っておいたってどうにかなる訳がない。
それに、酒だってそこそこ飲めるし、酔って醜態を晒すタイプじゃないから、なにかやらかしているかなんて気にすることはない。・・・ないはずなのだが。
(もし夜中に、酔っ払ったアホ面で顔を出してきたら一発殴ってやろう。)
酒に酔って上機嫌な顔でこの部屋のドアを開けるロココを想像してみたが、それはありえない気がした。酔っ払い親父じゃあるまいし、ロココが深夜この部屋を訪れる訳がない。
こぼれる溜息と共に、何か胸に溜まっているモヤモヤが溢れ出してきたような、正体不明の苛立ちに襲われた感覚があった。
(やめだ、やめ!この私を苛々させおって、アイツ、やっぱり一発殴る。)
気持ちを切り替えようと、お風呂セットを持ってドアノブに手を掛けた。浴室は自室を出て左方向、右に行くと一つ部屋をはさんでロココの自室になっている。
行く必要なんてないと思っていたのだが、気がつくと足が勝手に右へすすんでいた。
(一体何をしているんだ、こんな意味のないことを。・・・なんだ?。)
帰っているはずのないロココの部屋から気配を感じた。おかしいと思いながらノックしてみるが反応はない。
「おい、居るのか?・・・開けるぞ。」
一応声をかけてドアノブを回すと、鍵は掛かっておらずすんなりとドアが開いた。
→(2)へ続く