ふかふかの枕にぼすんと頭を乗せて、部屋の中を見渡す。
窓からは夕焼けが見え、明かりをつけていない部屋の中は薄暗くなってきているが、サイドテーブル、チェスト等の家具も上等なものが備え付けられているのが分る。
ロココは沈んでいく夕日を見ながら、恐らく明日行われる儀式に想いを巡らしていた。
聖魔和合の儀・・・
天使と悪魔が和睦した象徴として、なくてはならないものだと、そう言われて源層界へ連れてこられた。
だが、幸か不幸か、ロココとマリアは強制的に和合(融合)させられたフュジョンキッドスの末路を知っている。
聖常キッソスと魔君ポセイドスの二人は、恐らく水の対として、実験的に融合させられたのだ。
あの二人は明らかに互いの存在に反発し合っていた。きっと聖魔和合の儀とは、お互いが融合を望まなければ成功は困難なのだろう。
聖神ナディアは炎の女神、炎の対としての自分達を確実に融合させようとして、その為に目の前で聖常キッソスと魔君ポセイドスを融合させたのではないかという気さえしてくる。
なぜ、聖魔和合と称してまで、二つの別の存在を一つに融合しなければならないのか、その理由は分らない。
しかし、今の状況では理由を聞き出すことは賢明な判断ではないだろうし、もちろんこの決定を受け入れるしか道はない。
そうと決まれば、何が何でも明日行われる(と思われる)聖魔和合の儀に耐え抜いて、絶対に次界に戻らなければならないのだ。
・・・それなのに。
(こんなことしている場合じゃないんだけどな。)
気が付いたら夕日は沈みきっていて部屋は真っ暗だったが、立ち上がるのが億劫なので、サイドテーブルの上に置かれている読書灯をつけてみた。
オレンジ色の淡い光がベッドサイドを照らしているが、枕元がちょっと明るくなっただけで、部屋の中はかすかに様子が分る程度だ。
(マリア、何考えているんだろう・・・。)
先ほど手に取ったマリアの手は、白くて、細くて、冷たかった。
この手を温めないといけないという気がして、気が付いたら勝手に体が動いていた。
天蓋瀑布の惨事の後から共に行動するようになったが、まだお互いに見えない部分がたくさんある。
しかも、ずっと、天使・悪魔という立場から、対立せざるをえなかったし、顔を合わせれば戦いということもしょっちゅうだったから、簡単に打ち解けられるなんて思ってもいなかった。
でも、時折、先ほどみたいに自然に体が動くことや、一緒に居ることが心地よく思えることがあって、それは自分達にとって、良い兆しなのではないかとずっと感じてきた。
マリアもあまり表情には出さないけれど、きっと同じように感じてくれていると思っていた。
(・・・そう思ってたけど、この時期にあの反応はきついなあ。)
マリアの性格を考えると、ここはやはり自分が折れるべきかと思うが、何が悪かったのかが分らない。
何もしていないのに謝るのも腑に落ちないが、明日のためにもここは仲直りしておくべきだろう。
コンコン
(!?マリア??)
あまりにタイミングよくノックが聞こえたので、驚きを抑えつつそっとドアを開けると、戸惑っているような表情のマリアが立っていた。
「・・・マリア?」
逆光で表情が良く見えない。
部屋の明かりをつけようとスイッチに手を伸ばしたら、マリアの手に遮られた。
「・・・いい、このままで。」
「・・・。」
触れた手はそのまま繋がれたままだ。
「昼間は、わたしが悪かった。折角お前が気を使ってくれたのに、・・・悪いことをしたと思っている。」
マリアはそう言って、ふと視線を逸らせた。
ロココはもう一方の手でマリアの顔に掛かった髪を払い、上を向かせる。
「・・・いいよ、もう。」
「・・・明日が正念場だ。我々の足並みが揃っていなければ喰われかねない。フュジョンキッドスのように・・・。」
マリアの眼が強い光を放っているのが分る。
「私達なら大丈夫。まだまだやらなければならないことは沢山あるんだ。絶対に次界に戻るって約束したしね。」
「・・・うん、そうだな。」
ロココの肩にマリアが額を寄せてきた。
2,3回髪を撫で、そのまま背中に手を回し抱き寄せてみる。
絶対に守って次界に帰ると心の中で誓った。
マリアは大人しくされるがままの姿勢で一言呟いた。
「期待している。」
ロココは無言のまま腕の力を込めただけだったが、気持ちは伝わっていると確信できた。
⇒嘘吐き(1) へ続く
-[あとがき]----------------------------------------
週末に間に合わなかった~
もうすぐ四月だし、時間の経つのはあっという間です。
マイペース更新ってことで、やっていくしかないかなあ
二人はいい感じに仲直りしますが、この後すぐ夕食が運ばれてきて
ロコマリタイムは中断されます
聖ビーナシスみたいな子が「アンドロココさま~、シヴァマリアさま~、お食事お持ちしました~」
なんてでっかい声で呼ぶもんだから、二人して苦笑して食堂に向かうのです(笑)
そろそろチューくらいさせてくれってロココ様は思っているかもしれません
いやいや、チャンスはあったのに、さっさとしておかないロコ様がいけないのです。
・・・また口が滑りました。
え~と、次回はいつ更新できるかお約束できませんが、
できるだけ早くにお届けできるようがんばります!!
以上、あとがきでした