「アンドロココ様、お久しぶりでございますわね。」
光と共に源層界へ導かれたアンドロココとシヴァマリアを出迎えたのは愛然かぐやだった。
旧知のアンドロココに親しげに話し掛けてくる。
「・・・愛然かぐや、ご無沙汰しています。」
「この度は新界王にご昇格との事、誠におめでとうございます。こうしてお目にかかれて嬉しゅうございますわ。」
「ありがとうございます。」
「アンドロココ様、ご紹介してくださらない?」
そう言ってちらりとマリアに視線を送り、嫣然と微笑んだ。
「あ、失礼しました。悪魔側の次界創造主として選ばれたシヴァマリアです。マリア、こちら愛然かぐや殿。」
「お初にお目にかかる、愛然かぐや殿。」
「お会いしたかったわ、シヴァマリア。ノア殿によく似てらっしゃること。」
「・・・母をご存知か。」
「ええ、私が聖神ナディア様にお仕えし始めた頃に少しお会いしたことがありますの。それはお美しい方でしたわ。」
「・・・。」
「あら、申し訳ありませんわ、ご案内も忘れて話し込んでしまって。さ、こちらですのよ。」
くるりと背を向けて愛然かぐやは奥へと進んでいく。
道々、ここはもうじき美しい花が咲くだの、この池には大きな魚が住んでいて主と呼ばれているなどと話し掛けてくる。
それにはアンドロココが「それはさぞ美しいのでしょうね。」「そんなに大きな魚がいるのですか。」と律儀に返答し、シヴァマリアは聞いている素振りはするものの、辺りの様子を観察するだけで一言も口を挟まなかった。
「さあここですわ。今日はこちらにお泊り頂いて、明日聖神ナディア様がお会いくださるそうです。」
通されたのは、庭園の中ほどにある別邸だった。
建物の中は、玄関ホール、応接間、食堂、そして個室が二つ。バス・トイレは個室に設置されているようだ。
「何かとご不便があるかと思いますけれど、お許しくださいませね。お食事は定時に準備させますし、お茶などはいつでも準備を整えておりますので、おくつろぎ頂ければ幸いですわ。」
「ご配慮ありがとうございます。」
「いいえ、この中のものはお好きにお使いください。・・・ただし、外へは絶対にお出になりませんように。お約束くださいませ。」
「・・・わかりました。」
「では、わたくしはこれで。」
そう言い残して愛然かぐやは戻って行った。
「聖神ナディア様、ただ今戻りました。」
「ああ、愛然かぐや、ご苦労様でした。・・・どうでしたか?」
報告に戻ってきた愛然かぐやに、御簾の向こう側から聖神ナディアが話し掛ける。
「想像通りでございました。二人とも、強い決意を感じますわ。それから、・・・まだ若干の不安がありますが、恐らくは問題ないかと。」
「そう、ね。・・・わかりました。お前ももうお下がりなさい。また明日、案内役としてお願いしますね。」
「畏まりました。失礼致します。」
愛然かぐやが退出し、聖神ナディアは長い長い溜息をついた。
先ほど報告させたものの、実は聖神ナディアは愛然かぐやを通じて案内の一部始終を感知していた。
(・・・ノア姉さまに良く似ていた。)
その事実が自分を動揺させていることに、聖神ナディアは戸惑いを感じていた。
遥か昔、穏やかな日々を過ごしていた頃、憧れていた存在。そして、同時に抱いていた微かな嫉妬と反発が疑念と失望に変わり、源層界から姿を消してしまった人。
そのノアに良く似た娘が、自分に会いに遂にここまでやってきた。
また大切なものを奪いにきたのか、それとも手を差し伸べてくるのか。
「また、私には一つしか選ぶ道はないのね・・・。」
聖神ナディアは両の腕をぎゅっと抱きしめ、小さく小さく呟いた。