「ねぇ、今何時~?」
聖澄士、聖蝶士と顔を見合わせて思わずため息がもれる。
外は寒くて吐く息が白い。今夜は雪が降るのではないかと思うくらい寒く感じる。
携帯電話の時刻表示は21:00になろうとしていた。
「アンドロココ様はまだいらっしゃるのかしら?」
「さすがにもうお帰りになられているかも~……」
大門魔に上手いことはぐらかされてしまったのだ。
もしかしたらその隙にアンドロココ様は帰ってしまったのかもしれない。
既に神帝たちもその大半がこの次界政務庁を後にしている。
私たち以外にも数え切れないほどの女の子が出入り口前には群がっていたが、今はほんのごく僅かしか残っていない。
それもどうやらアンドロココ様目当てではないように見える。
「あっ!」
聖蝶士が両手で携帯電話を握り締めてがっくりとうな垂れた。
顔を上げた彼女の瞳は涙が浮かんでいる。
「フラッシュ速報にアンドロココ様今年も無事帰宅って記事が……」
「「えぇーーーー!!」」
私と聖澄士は慌ててフラッシュサイトにアクセスする。
見ると確かに聖蝶士の言ったとおりの速報が流れていた。
フラッシュ光后の開設しているフラッシュサイトは話題のニュースがリアルタイムで更新されることで非常に需要のあるサイトだ。
フォーカス眼鬼が街中を飛び回って特ダネを拾ってくることで知られている。
今日はバレンタインデーということで、人気のある著名人の居場所をフォーカス眼鬼をはじめとするフラッシュ光后の部下たちが追いかけているのだ。
「……しゃーないね」
「うん、帰ろっか」
「いい加減寒くて凍えそうだし」
今年もまたアンドロココ様にチョコレートを渡すことが出来なかった……
初めてそのお姿を拝見した時から今まで3人で夢中になって追いかけてきた。
でもアンドロココ様にはシヴァマリア様がいらっしゃる。
追いかけたい気持ちと諦めた方が賢明だという気持ちがせめぎ合うようになってきている。
自分でも最近そう感じるようになってきた。
「ね、寒いし私おなかペコペコ~」
「あー私も!何か温かいものでも食べて帰ろうよ」
聖澄士と聖蝶士は首をすくめて私に返答を求めてくる。
確かに足元からゾクゾク寒気がきているしおなかも空いているのだけど、何故か2人の問いに頷くことができなかった。
「うーん……私、ちょっと歩きたいから1人で先に帰るね」
「えー聖華士ゴハン一緒に食べて行かないのぉ!?」
「やーだ、まさか食欲ないとか?どうしちゃったのよー」
自分でもどうして1人で歩きたいのかよくわからない。
でも、その気持ちを彼女たちに上手く説明出来なさそうなのだけはわかる。
寒いから具合悪くなっちゃった?と聖蝶士が顔を覗き込んできた。
「違う違う!ほら、私って今ダイエット中だしさ、美容のためよ!!」
これでも一応アイドルだもん。
常に人目に晒されているとついストレスも溜まって食に走るコトだってある。
『軽くヤバイ』はテレビ画面では『かなりヤバイ』に変換されてしまう。
最近はテレビの性能も格段に良くなって、お肌のキメまでバッチリ肉眼で確認できてしまうから大変。
アイドルの聖ウォーマンとして活動する時は3人の真ん中にポジションを取る私。
美容に気を使わなくてはいけないのは本当の話だ。
「縁縄女天みたいにドラマの主演とかバンバンとって、ピーコック帝子と共演してみたいしぃ~」
ピーコック帝子はこの世界の銀幕スターとして大衆にとても人気がある。
そして好感度No.1、CMクィーン、ドラマから舞台・映画まで幅広く活躍する縁縄女天は目標の存在だ。
私たち聖ウォーマンに対する世間の評価はというと……ちょっと人気が出てきたアイドルグループ程度。
「聖華士抜け駆けズルーイ!」
「私だって一角キングと一緒に恋愛ドラマやりたーい!」
同じ芸能部門で活躍する天使だけど、まだまだ遠い存在の人たち。
聖蝶士も聖澄士もキャーキャー言っている。
「じゃ、私先に帰るね」
「暗いから気をつけなよー。変なヤツいたら大声出すんだよ!」
「わかってるって」
「帰ったらちゃんと温まりなよ?」
「うんうん、そうする。また明日ね」
「明日の収録は午後からだっけ?」
「16時から。朝寝坊できてうれしーい!」
バイバーイ、と2人に手を振って別れた。
そっか、明日は夕方からなんだっけ。でもコレといって片付けなければいけない用事はなかったはずだ。
ボーっとしながら適当に歩き始める。この近辺はテレビ局なども近いのでよく知っている。
道に迷って帰れなくなるという心配はしなくてもいい。
どのくらいそうして歩いていただろう。
前触れもなく携帯電話が鳴動する。
この曲は……THREE DROP。この曲を着信音に設定しているのは、歌っているあの3人組だ。
「も、もしもし!?」
突然の出来事に何だか声が裏返ってしまった。
何度か歌番組で一緒になったことはある。みんなで番組の打ち上げに参加したこともある。
こうして連絡先を交換していることでわかるように、多少の面識はあるけど特別親しいというほどではない。うん、断じてそんなことはない。
こんな風に連絡を貰うなんて初めての出来事だ。
携帯電話を握る手がちょっと汗ばんでいるような気がする。
「聖華士?今晩は、今仕事中?」
「いっいいえ!今日はオフだったんです!大丈夫です!」
いちいち返答に力が入る。
一体何の用だろう。最初に『聖華士』と言ったのだから間違い電話ではないと思う。
でも彼みたいな人が私に用があるなんて到底思えない。じゃあやっぱり間違い?いやいや、それはないでしょう??
「もしよかったら一緒に何か食べに行かないかい?」
食事のお誘い!?
これはもう青天の霹靂だ。どうして私が食事に誘われるんだろう。
もしかして、これは何か裏があって……ドッキリとか!?うわぁ、すごくありえる。
でも私たち聖ウォーマンみたいな駆け出しアイドルがバラエティ番組で視聴率を狙うのとは違う。
彼らはそんなことしなくても十分売れている。出せば売れる、出れば数字が取れる、今をときめくミュージシャンだもの。
ドッキリなんて低俗なバラエティ番組に出演したりしたらむしろイメージダウンしそうだ。
伸びのある優しい歌声、心にグッとくる歌詞とメロディーで老若男女問わず大人気のグループ。
まるで月とスッポン。
「もしもし、聖華士?もしもし?」
色々邪推しているあいだも会話は進行していたようだった。
私の意識が遠い世界へ飛んでいっているあいだも彼は私に話しかけていた!?うわ、どうしよう!
「すみません!」
「そうか、やはりもう食事は済んでいるか。もう少し早く連絡すればよかったな」
「え?あ、違います、今のすみませんはそうではなくて、あの、ええと、私もまだ、食べてませんっ!」
話を聞いていなかった事について謝ったつもりだったけど、違うようにとられてしまったようだった。
そう、私はまだ食事をしていない。そう思うと急におなかが減ってきた気がするから不思議。
「今どこにいるんだい?」
「ここは……」
改めて周囲をぐるりと見渡してみる。
ここは次界政務庁の近く、レインボーテレビ局のあるお台場エリアだ。
このエリアで一番立派なホテルがすぐ隣にある。
「次界メリーディアンホテルのすぐ近くです」
「丁度いいな。私はレインボーテレビ局なんだ」
「あ、すぐ近くですね」
「これから迎えに行くからロビーで待っていてくれるかい?」
「私が局まで行きますよ、近いですから」
そう言うと、ハハハッと爽やかな笑い声が聞こえてきた。
電話口からミントの香りでもしそうな感じがする。
「外は寒いよ。それに暗いし危ない。すぐに行くから待っていて」
はい、と返事をすることしか出来ず電話は切れた。
既に通話が終了している携帯電話を見つめる。
やっぱり信じられない。どうして急に?
「もしかしたら食事って2人だけじゃないのかも?」
次界メリーディアンホテルの暖かいロビーに入るとホッと落ち着く。
やはり体が冷えていたのだろう。フカフカのソファーに座ると疲れまでがドッと沸いてくる。
アンドロココ様にチョコレートを渡そうとして今日は一日中外をウロウロしていたのだ。
バッグの中で渡せなかったチョコレートが存在感を発揮している。折角キレイにラッピングも出来たのに。
「……アンドロココ様」
ふぅ、と息を吐くと急に周りが見えてきた。
よく見なくてもカップルだらけ。右も左もどこもかしこも男女の組み合わせばかり。すっごく腹立たしい。
面白くない!
私はアンドロココ様にチョコレート渡せなかったのに、世の中の人たちは幸せそうだ。
「フン」
なによ。
渡せるはずだったんだもの。本当は……
いや、渡したかっただけだ。渡せる保証なんてどこにもなかったし、仮に会えたとしても受け取ってもらえなかったかもしれない。
アンドロココ様にはシヴァマリア様がいらっしゃる。わかってる……
このままずっと片思いのままなのかな。
そんな風に考えていると、正面玄関のほうが騒がしいのに気がついた。
よくわからないけど黄色い悲鳴のような、熱っぽく浮かれた空気が私の側まで流れてくる。
そちらの方を見ると、注目の的となっている人物は私に気がついたようで軽く片手を上げて合図を送ってきた。
ロビーにいたたくさんの女の子が彼氏そっちのけで『彼』に熱い視線を送り、突然の『彼』の登場に歓喜する。
「お払い聖武!」
フカフカのソファーから立ち上がり、電話をくれた聖有羽天使の1人であるお払い聖武のもとに駆け寄った。
⇒(2)へ続く 続きはもう少々お待ち下さい
-[あとがき]----------------------------------------
shitoのお話設定をベースにしています。
例えば『次界政務庁』とかがわかりやすい例ですね。
かなり恥ずかしいないようですが……
『お払い聖武・聖華士』の恋のお話にしていこうと思っています。
コレは間違いなくビックリマン好きの人たちの間でもAmuだけでしょうね!
いやもう、ただ単に好きなキャラ同士をくっつけようとしているだけなんですけどねー
でもお払い聖武超格好いいと思うんですよ。美人キャラとかは結構いると思うんですけど、ロコ神帝以外の美男子キャラって聖有羽天使が筆頭じゃないですかね。
結局美形至上主義か!!!
*お払い聖武*
ミュージシャン。リアル世界でいうミス●ルとかスピ●ツみたいな曲風と思っていただきたい。
でも今回のお話に出てきた『THREE DROP』は巷で大人気のKAT●TUNのONE DROPをもじった・笑
聖有羽天使の年齢はKAT●TUNとかNEW●くらいだと想定している。
*聖華士*
アイドル。リアル世界でいうAKB4●みたいなキャピキャピ系のノリ。
歌って踊れる現代っ子みたいな。恋多き年頃のような一途な気持ちを大事にしたいような?
高校生くらいの年齢なのかなぁ。
今回ほぼお払い聖武でてないよ。
というか次回はいったいいつUPできるんだ??
だって明日は初めてのお稽古の日だもーーん!明後日は夜遅いし~土曜日はバレンタインデー当日だ!!