シヴァマリアは朝の日差しを感じて目が覚めた。大きな窓に引かれたレースのカーテンを見て、そう言えばここは次動ネブラだったと思い出し、時計を見るともう9時を過ぎていた。
ふと、入り口の方に目をやると、ドアの下の隙間からメモの様なものが差し込まれているのが見える。
『マリア様、おはようございます。朝食の時間を10時にしましたので、ゆっくりお支度なさってください。』
(ああ、なんだ・・・ヘラの奴、起こしてくれて良かったのに・・・。)
次動ネブラの政務官邸、通称ネブラ城に昨日から視察で来ているのだった。
一日で視察自体は終わるのだが、日帰りは大変だし、積もる話もあるから是非泊まっていってくれと言われたのもあって、今回は一泊二日の日程なのである。
予定では、9時に朝食を取ることになっていたが、昨晩はヘラ王女やデビリン族達と話し込んでしまって寝るのが遅かったので、配慮してくれたのだろう。
用意されていたガウンを羽織って、部屋に備え付けられた洗面台に向かう。暖房も入っているが、やはり2月の朝は寒い。
顔を洗って軽く化粧をし、絡まっていた髪を梳かし、簡単に一つに纏めた。
「うぅ~さぶさぶ。」
寒い朝はさっさと温かい朝食を取るに限る。そんな事を考えながら手早く身支度を整え、鏡を覗いておかしなところがないか確認する。
着物は前日と同じ色無地で、帯だけ別のものに変わった自分が映っていた。帯一つで、昨日と印象が大分変わったのに満足して、鏡に顔を近づける。
化粧は薄めだが、食事後に少し手直しするつもりなので、ひとまずこれでいいだろう。
(ロココのやつ、ちゃんと仕事に行ったろうな?)
普段、家事全般はシヴァマリアが担当しているので、残してきたアンドロココのことがちょっと心配なのだ。
昨日の夜は神帝達の飲み会に付き合うと言っていたから、夕食は心配無いし、今日の朝食もちゃんと準備しておいたから大丈夫な筈なのだが、こうして実際離れてみるとやはり心配になってしまう。
(あいつは右のものも左にしないからな・・・。)
家の中のことはシヴァマリアに任せきりで、普段はバター一つ冷蔵庫から取らないのだ。
今回は、朝食用のパンはここで、バターはここ、紅茶はカップとティーパックをここに出しておくから、このヤカンでお湯を沸かして飲めと事細かに言ってある。
(洗濯機は回さなくて良いと言ってあるから、帰宅したらすぐやらねば。・・・わたしは案外心配性なのかもしれない。)
そんな事を考えながら食堂に向かっていたら、デビリン族のメガロ魔Λが通路の向こう側から挨拶をしてきた。
「あ、マリア様、おはようございます。今呼びに参ろうかと思っていたところです。朝食の用意ができてますのでこちらへどうぞ。」
「ああ、おはよう。おかげでよく眠ることができた。お前達はあの後ちゃんと寝たか?」
「はい、昨日はたくさんお話できて嬉しかったです。ネス魔トロン達にたまにはマリア様の秘書を代わってもらいたいくらいです。」
メガロ魔Λは嬉しそうに微笑んでシヴァマリアを食堂へ先導した。
「マリア様、おはようございます。昨日は遅くまでお付き合い頂きありがとうございました。ゆっくりお休みになれました?」
「おはよう、ヘラ。ふふ、寝坊してしまうくらいゆっくりできたよ。手配してくれてありがとう。」
「いいえ、とんでもございません。昨日はずいぶん盛り上がってしまいましたし、少し予定はずれますが、支障は無いかと思いましたので。」
席に着き朝食を取りながら取り留めの無い会話をしていたら、向かいの席のヘラ王女がふと思い出した風にこう切り出した。
「そういえば、マリア様。今日は愛の日ですけれど、・・・差し上げますの?」
「ん?・・・ああ、そうだな、一応はな。まだちゃんと用意はしておらんが。」
そうだ、一応は渡しておかないと。まあ、そういうイベントだし、一応去年奴からも花を貰ったし、一応こっちも渡したし、・・・一応そういう間柄だしな。
実は今月に入ってから、この『一応渡す理由』がぐるぐると脳内を駆け巡っているのだが、では何をどう渡すかを考えると、出口のない迷宮にはまってしまうのである。
「そうですか。・・・まあ、一応差し上げた方がいいですよね。」
「い、一応そうだな。材料は用意してあるんだが、『いかにも』なのはちょっと・・・で、どうしようかと考えているところだ。」
「まあ、手作りですのね。そうですね・・・直球じゃないのと言ったら・・・食後の紅茶のかわりにホットショコラを出すとかはどうでしょう?」
「う~ん・・・(食後に紅茶を飲んだりしないからな・・・)」
「(マ、マリア様が悩んでらっしゃる。何とかしなくては!)メガロ魔Λ、バクトロ魔Ω、デス魔トΣ、あなた達何か案は無い!?」
「え~と、チョコ味のパンケーキとか?」
「じゃあ、チョコアイスとか?」
「う~んと、・・・か、隠し味にチョコレートを入れるとか・・・あ、ダメですよね。」
ヘラ王女とデビリン族の三人は一生懸命考えてくれたが、どうもピンとこない。
いや、変化球で攻めるという意味では、デス魔トΣの案が意外といいかもしれない。一見おかず風だけど食べたらチョコという感じで作ってみようか。
「そうだな、パッと見て分らないようにして、食卓に出してしまおうかな。」
「それがいいですよ。少しビックリさせましょうよ。」
「おかずかと思って食べたらチョコだったなんて面白いですね!」
「マリア様のチョコが貰えるだけで有難いんですからね~。」
「おいおい・・・。」
前々からのことだが、デビリン族の三人からは、アンドロココに嫉妬するような発言がたまに出てくる。慕ってくれるのは嬉しいが、ちょっと複雑な気分だ。
「ほら、あなた達、・・・え~ゴホン。マリア様、これは私達からです。」
そう言って差し出したのは綺麗にラッピングされたピンクの包みだった。
(お?・・・まさかロココに渡せなんてことはないだろうから、わたしにか?)
「マリア様のお好きなものをと思って・・・私達でレモンマフィンを焼いたんです。お口に合うかわかりませんけど、召し上がってください。」
「ああ、ありがとう。覚えていてくれたのか。秘書の三人も呼んで明日のおやつに頂こう。」
「よくこれでお茶にしましたよね。懐かしいです。」
「そうだな、懐かしいものだ・・・。ああそうだ、都で今評判のフルーツタルトを用意しているのだ。明日ここに届くように手配してある。わたしも食べたが、絶品だぞ。」
「「「わぁ~ありがとうございます!」」」
「マリア様、お気遣いありがとうございます。楽しみにしておりますね。」
(やはり用意しておいて良かった。)
彼女達の分と、都に居る秘書三人の分のタルトを既に注文しておいたのだ。それから、神帝達へは手作りクッキーを用意してある。
一番肝心なアンドロココ分だけ、迷いに迷ってまだ決まっていなかったが、今日の話で大体何にするか見当もついた。
今日の夕食が楽しみだ。一体どんな顔をするだろうか?ああ、早く会いたい。
食事をして、それから、・・・きっと綺麗なバラの花束をくれるのだろう。
シヴァマリアはいつの間にか満面の笑みを浮かべていた。
-[あとがき]----------------------------------------
この話は、「愛の日(1)~(4)」のオマケ話、マリア編です。
マリアが春巻きチョコをあげる過程・・・ただそれだけです。
ロココが全然登場しなくて、ロコマリしてなくて自分でちょっとがっかり。
でも、「ロココ~愛してるわ~」みたいなマリアはちょっと・・・なんでこんなものかも。
ちなみにヘラは「手作りなんてしなくていいのに・・・(アンドロココ殿にはもったいない」)と思ってます。黒ヘラ
お姉さまを取られてしまった心境かも?
それから、マリアはヘラやデビリン族をはじめ、女性から絶大な人気を集めています。「マリみて」の祥子様みたいな感じ?(←実はよく知らない)高嶺の花ってやつですね。
男性からのアプローチは「表立っては※」あまりありませんが、それは彼女等がガード(牽制)しているからです。怒ると怖いし(笑)
※もしかしたら愛戦の竜眼師みたいなのが居るかもしれませんが・・・
ロココも女性からのアプローチを受けることはあまりありません。(聖ウォーマン達を除く)
何となくね~shito設定だと、アイドルじゃなくて政治家ってイメージなので(?)あんまりギャグっぽくするのはおかしいかな~と思って。
それに、ヘッド時代はさて置き、アンドになってすぐ聖魔和合があったので、人々には自然と「ロココ×マリア」という構図が刷り込まれたという感じなんです。
(周りが思っているほど当人達の関係はすぐ進展しないのですが・・・)
それと、男性陣からは慕われつつも恐れられています。やるときは徹底的に容赦なく叩き潰すので・・・(マリアと同じですね)
そうそう、ピーくんならアイドル兼業しててもいいなって思っちゃった(笑)他の神帝の皆メンゴ!
以上、あとがきでした!