部屋の窓から天高く晴れ上がった秋空が見える。午後からずっと書類と格闘していたアンドロココは、立ち上がって大きく伸びをした。
(本格的に冬を迎える前に何とか間に合わせないとな・・・。)
聖魔和合から約一ヶ月が経ち、次界全土の混乱もようやく収まってきた。都に定められたこの地にも、徐々に仮設住宅や店舗等が建てられ、再建に向けて活気づいている。
アンドロココとシヴァマリアがFuzzyM.Rとなって源層界へ行っている間、スーパーゼウス・シャーマンカーンの指示の元、大照光と魔魂プタゴラトンを中心に避難民や負傷者の保護が進められた結果、何とか日常生活が送れるようになってきたのである。
次界に、天聖界の象徴とも言える、スーパーゼウスとシャーマンカーンの二人がいつまでも留まり続けるのは良くないということで、アンドロココ・シヴァマリアと入れ違いに天聖界へ帰還してしまったが、この二人の助力がなければ混乱収集にはもっと時間がかかっていたことだろう。
今頭を悩ませているのは次界政府の構想であった。シャーマンカーンと魔魂プタゴラトンが大まかにまとめてくれていた案に肉付をけして、今週中に正式発表しないといけないのである。
その為には、今日中にシヴァマリアの案とすり合わせて、原案として纏めなければならない。暫定政府ということになるが、適材適所を見極めなければ、この冬を越えるのに苦労するのは目に見えているので真剣だ。
そういった理由から、午後から唸っていたわけであるが、いつまでも悩んでいてもしょうがないし、一応大体案もまとまったので、すり合わせをしようとシヴァマリアの執務室へ向かった。
コンコン
「マリア、入るよ。」
部屋に入ると、案の定シヴァマリアも煮詰まっていたようで、じっと書類を睨んでいた。
「お前も大体終わったのか?」
「まあ、大体。一旦軽く確認して、休憩にしない?」
シヴァマリアはゴキッゴキッと肩を回して、ああ疲れたなど言いながら、手招きでアンドロココを呼んだ。立ち上がるのが面倒なので、こちらへ来いということなのだろう。
手頃な椅子が無いが、お互いの案を交換して簡単に目を通すだけだから、立ったままでも大したことはない。
「ん、こっち見てくれ。」
「はい。」
持ってきた原案をマリアに渡そうとしたとき、ふと違和感を感じた。そう言えば、今日は珍しく、いつも長く後ろに垂らしている髪を結い上げている。
丸いお団子ではなく、ぐるぐると纏めて髪飾りで留めているのだが、髪の毛を纏めている姿を見たのはずいぶん久しぶりで、まるでワンダーマリア時代に戻ったように見えた。
書類を見るのに邪魔になったのだろうか、そんなことを考えていたら、着物の襟足から白い項が出ているのに気づいてしまった。
シヴァマリアが頬杖をついて書類を見ているものだから、隣に立っているアンドロココからは、白く細い項が良く見えるのである。
(・・・これは、これはちょっとまずい。)
「おい、さっきプタゴラトンが言っていたのだが、秘書を置いたらどうか、という話があるそうだ。」
シヴァマリアはアンドロココが自分の項に気をとられているとは露知らず、普段どおり話しかけてくる。効率よく仕事を処理する為に、早めに秘書を置いた方がよいのではという話のようだ。
今は魔魂プタゴラトンがその役割も兼任しているが、仕事量に処理が追いついていない為、この現状を何とかしようということらしい。
「でな、わたしの秘書には、お前も知っているデビリン族のあの三人が挙がっているのだが、悪魔・悪魔の組み合わせはちょっと問題あるんじゃないかとプタゴラトンが気にしているんだ。」
「(・・・何でこんなに白くて細いんだろう・・・)・・・はぁ。」
ぼんやりとそんな事を考えながら、シヴァマリアの話に生返事をした。
「それで、お前の方の秘書には、ファントム王とかのフェロー天使が候補に挙がっているから、わたしの所と交換したら丁度いいのではないかと思うんだが・・・どうだろう?」
「えっ!?」
シヴァマリアがこちらを向いたので、はっと我に返り言われたことを慌てて反芻した。
(・・・ファントム王がマリアの秘書に?だめだだめだ、天使にしろ悪魔にしろ、こんなマリアを見せるわけには行かない!)
何とかそれだけは回避しないといけない。別の男にこんな無防備なマリアを見せる位なら、デビリン族に秘書をしてもらった方がましだ。
時折、彼女達から嫉妬のような視線を感じたり、何かにつけて自分からマリアを護ろうとするような素振りもあったので、良いイメージは持っていないのだが、ここは譲歩するしかない。
むしろ、この人事が自分の推薦と分れば、彼女達に好印象と映るかもしれない。そうすれば、今後やりやすくなるのだから、これはいい機会だ。
一瞬でそう決断して、さりげなく(本当の意図に気づかれないよう)説得することにした。
「悪魔・悪魔の組み合わせに問題があるなどとは思わないな。魔魂プタゴラトン殿は色々懸念されているようだけど、却って不自然で良くないと思うよ。それに、マリアもデビリン族の彼女等と仕事をした方が何かと捗るんじゃないかと思うな。」
「そうか?まあ、確かにあいつ等の方が効率は良さそうだが。・・・ま、お前がそう言うならいいか。この際重要なのは仕事をさっさと片付けることだからな。」
「うん、マリアの方はそれでいいと思う。私の方はもう少しプタゴラトン殿と相談しておくよ。じゃあ、とりあえず休憩にしようか。」
「そうだな、お茶でもしながらちょっと詰めるか。南の小部屋でいいよな。あそこなら話を聞かれることもなかろう。」
どうやらこの説明で納得してもらえたようだ。ほっと一息ついてシヴァマリアと共に部屋を出た。
現在はまだ仮庁舎なので、執務室に応接セットなどを入れる余裕が無い。その為、休憩するときには同じ階にある南の小部屋を良く使用していた。
新しく庁舎を作る時には、自分とシヴァマリアの執務室は,隣同士にして直接行き来できるように扉を設けて貰おうか。
そんな事を考えながら、横を歩くシヴァマリアにチラリと目をやった。
「・・・なんだ?」
「あ、・・・髪を結っているのは久しぶりだなと思って。」
本当はもう髪を下ろしてもらいたいのだが、まあ今は自分が一緒だしいいか。・・・目の保養になるし、と心の中でこっそり呟いた。
「たまにはな。・・・これは母の髪かざりなんだ。普段使いするものじゃないんだが、今日は何となく使いたくなって。」
「そうだったんだ、だからマリアの雰囲気によく合っていたんだね。・・・今度の休みに普段使い用のを買いに行く?」
シヴァマリアが左手で赤い髪飾りを触りながら話すのを見て、思い切って誘ってみた。
「・・・いいのか?」
「たまには息抜きしないと。戻ってきてから、ほとんどこの庁舎内で部屋と執務室の往復しかしてないし。」
「そうだな。街の様子もこの目で見たいしな。変装でもしてお忍びで行くか。」
「あはは、変装か、いいね。」
悪戯っ子のような目をしてニヤリと笑うシヴァマリアにつられて、思わず笑いが漏れた。
一日の仕事を終え、仮庁舎内の自分の寝室用に充てがわれている部屋に戻ってきたアンドロココは、どさっとベッドに倒れこんだ。
まだまだ都は復興中の為、アンドロココとシヴァマリアは仮庁舎内で生活をしている。神帝達は隣の建物に二人一部屋ではあるが部屋が用意されていて、毎日そこから通ってきている。
食事などは仮庁舎に作られた食堂を共同で使うことになっていて、つい先ほど遅い夕食が終わったばかりだ。
(あ~疲れた。今日は必要な部署の洗い上げと、その部署のリーダー決めまで大方終わったから、明日は全体会議だな。ああ、それから秘書の件をプタゴラトン殿に相談しないと。)
寝転がって天井を見ながら今日一日を振り返る。まだまだ仕事は山積みだけど、次の休みにはご褒美が待っている。
そう考えると自然と口元が緩んで来て、今日の最大の成果はこれだなと、頑張った自分を褒めてやろうと思った。
-[あとがき]----------------------------------------
ロココ様がすごく俗っぽくなってしまいました・・・
「決してカルイのではありません。男の子とはそーいうものだと思いましょう。」※
と藤井センセも仰ってることだし、まあいっか(笑)
※愛の泉編で初めてセシールに謁見した場面ご参照~多分そう書いてあったハズ(台詞は大体です)
蛇足ですが、この段階ではまだ聖魔和合したばかりで、次界は復興途中。なので仮庁舎でロコマリ+神帝は共同生活を送ってます。
残念ながら、まだロココとマリアの部屋は別です。なのでロココはマリアとの距離を縮めたい一心でデートに誘った模様(自分で書いておきながら、何だか可愛そう・・・)
ちなみに、神帝達の部屋割りは・・・
照光+ピーター
男ジャック+フッド
牛若+一本釣
アリババ+ヤマト
です。見事に虹順の通り(笑)←じゃないですね・・・(2010.4.6)
照光とピーターという組み合わせは、六魔穴の時一緒に聖光源に行ったし、同じマリア側の神帝だし順番的にいいかなと思って!
その内、仮庁舎から出てそれぞれ生活を始めることになりますが、それはまた別の話で書こうと思います(書くの?)
さて、そんなわけで(?)今回色々書いているうちにだんだんロココの性格が見えてきた気がします。
もっともらしいことを言って、結構自分の意見を通すことが多いのかも・・・正論って言うか建前って言うか。
まあ、責任ある立場なので、何をするにも理由がいるんでしょうね。その辺をすごく意識している。というのを表現したいのですが、・・・難しい。
色々書きましたけど、基本的には自己満足ブログなんで、ウチを見てくださる方にはさらっと読んで頂ければそれだけで嬉しいのです。
以上、あとがきでした!