(困ったなぁ……)
オーロラは今、とても困っていた。
手違いから注文日も納期も全く同じ依頼をベルが受けてしまっていたのだ。
と言ってもベルが悪いわけでもない。
だから尚更困ってしまうのだった…
作業面でオーロラをアシストすることの出来ない不器用なベルは事務・経理面で活躍の場を広げていた。
経費をやり繰りしてよりよい素材を買えるようにするのもベル。
アトリエでの仕事スケジュールを管理するのもベル。
最初は不慣れで失敗も多かったが、ここ最近はすっかり仕事も板についてきていた。
そしてアトリエへの注文依頼を受けたベルがスケジュールを確認し、注文を受け付けた。
だが、同じタイミングでオーロラ自身が直接依頼を受けてしまったのだ。
「どうしよう、どうしよう!オーロラ、本当にごめんなさい!!!
私、先方にお詫びの連絡してみる…今ならまだ許してもらえるかもしれないし。」
「いや…それは出来ないよ。一度受けた注文を断ったら信用問題になるからね。
それにこれはベルにスケジュールを確認しなかった僕の責任だよ、ごめんよベル。」
自分のミスではないとはいえ、ベルはすっかり落ち込んでしまっている。
それもその筈だ。何といっても今回のブッキングは非常に痛い。
大物アーティストの衣装と新人アイドルグループの衣装の依頼だ……
どちらも注目されているだけに、ゴメンナサイでは済まされない。
「けど聖有羽天使たちTHREE DROPの衣装は絶対僕が作りたいんだよなぁ。
前から約束してたし、僕も次のコンサート楽しみにしてるしなぁ。うーん。」
オーロラはピーターからの紹介で聖有羽天使たちとも交流がある。
いつかコンサートの衣装をお願いしたいと頼まれていた。
芸術性の高いコンサートで有名なTHREE DROPはオーロラも応援していたのだ。
今回のオファーは絶対に彼らに喜んでもらえるものを用意したい。
「やっぱり無理よ、だってTHREE DROPの衣装をデザインから制作まで全部するんでしょう?
いくらオーロラの手が早くても、とても他の仕事を受ける余裕はないんじゃないかしら……。」
確かにベルの言葉は事実だ。
聖有羽天使たちの衣装は個人的にも集中して取り組みたい依頼だと思う。
かと言って、それを理由にもう一つの仕事を断るわけにはいかないとも思うし……
どうすればいいかと悩むオーロラだが一つだけこの危機的状況を乗り切る道を見つけだしていた。
「ねぇベル、僕は聖有羽天使たちTHREE DROPの衣装は絶対に素晴らしいものを作りたいんだ。
でも確かにベルの言うとおり、両方を0から取り組むっていうのは無理じゃないかと思う。」
「そうでしょう?だからやっぱり今のうちにお詫びの連絡を……」
焦ったり落ち込んだりと目まぐるしく表情を変えるベルを余所に、オーロラは本棚の隅にあるスケッチブックを手に取った。
表紙に可愛い刺繍が施してある特別なスケッチブック。
それはオーロラがベルのためにつくったものだった。
「ベルがデザインした服を作ろうよ!」
オーロラはベルのスケッチブックをパラパラとめくる。
そこには可愛らしい女の子向けの洋服の絵が何枚も何枚も描かれていた。
お花のモチーフ、お菓子を模したもの、ぬいぐるみをアレンジしたもの……
そのスケッチブックは仕事をするオーロラの真似をしてベルが描きためた落書き帳だった。
「だ、だめよそんなの!!!」
まさか自分のスケッチブックが引き合いに出されるとは思ってもみなかったベルは、真っ赤になってすごい勢いでオーロラからスケッチブックを奪い取った。
「どうして駄目だと思うの?針仕事はできないからデザイナーになりたいって言ってたよね?」
「そ……そんなのただの冗談よ冗談!」
「冗談でスケッチブックいっぱいにデザイン描いてたのかい?」
「それは、その……暇だったの!そう、暇だったからオーロラの真似してみただけ!」
「僕はベルのデザイン可愛いなぁって前から思っていたよ?
ベルはお世辞だと思って全然取り合ってくれなかったけどね。」
ベルのデザイン画を覗き込んでは「ベルはセンスがある」「僕にはイメージできない可愛さ」といつも褒めてくれていた。
褒められれば嬉しくてはにかんでしまうが、ベルを傷つけないためのお世辞だと思っていた。
こんなの所詮子供のお遊びだろう、と。
「これはいい機会なのかもしれない。」
ニコニコとベルを褒めていたオーロラがフッと真面目な表情になった。
「ねぇベル?デザイナーになってはもらえないかな?
出来ればこれまでみたいに一緒にやってほしいけど、独立したいなら協力する。
お世辞なんかじゃなくて、本当に才能があると思ってるんだ。」
これは急展開だった。
回避不能の危機的状況からまさかのジャンプアップ。
ただのスケッチブックにオーロラが可愛いカバーを作ってくれた。
その可愛いスケッチブックに似合うような可愛い服を描いてみようと思った。
デッサンの勉強なんて全然したこともないから、デザイン画としてはパッとしないと自分でも思う。
それでも嘘を言わないオーロラがここまで自分を評価してくれたのが嬉しかった。
「ピーターも褒めていたんだよ、すっごく!
テレビで見るどんなアイドルの衣装よりもずっと可愛いってね。」
これでもう腹を括るしかなくなった。
「…………でも、私がデザインしたんじゃ先方は納得しないんじゃないかしら。」
オーロラの表情がパッと明るくなった。
仕事の危機も回避でき、ベルのデザイナーの一歩にもなる。
これはオーロラ王神のアトリエにとって大事な船出になりそうだ。
「勿論衣装作成には僕も手を貸すよ?
ベルのデザインで、とりあえず今回は僕がデザイン画を描いて先方に見せる。
まだ無名のデザイナーの作品ってことで、値段は安く抑えよう。
そうだな…このくらいで交渉しよう。」
オーロラが電卓に数字を表示させる。
それはアトリエで通常受注する価格の半値以下だった。
「これじゃあ大赤字になっちゃうわ。」
「いいんだよ、ベルの最初のお客さまなんだからサービスしなくちゃ!」
「オーロラの作る衣装が着たくて依頼してきたのに、納得しないんじゃないかしら……。」
尚も不安がるベルの頭をオーロラは優しくなでた。
「絶対に大丈夫。」
ある日のテレビに可愛い服を身に纏った女の子グループが映る。
それは深夜枠の番組で、目新しいプロデュースで人気急上昇中のアイドルグループを特集しているものだった。
「お前はこんなアイドルを見て面白いのか?」
冷や汗が流れる。
「面白いのか?」
「…(汗)」
「面白いのか?」
「面白いのか?」
「面白いのか?」
「…面白くありません(汗)」
「ならば消せ。」
消去。
消去された映像の中でクルクルと歌って踊る女の子たちが着ていた衣装。
それはデザイナーベルの記念すべき1作品目だったということが後に判明することになる。
録画予約をしていなかったピーターは、ロココが録画を消去してしまったことをひどく悲しんだのだった。
あとがき
広げられもしないのに自分から『THREE DROP』使ってしまいました!!!タスケテー
ヒゲが男のロマンならドレスは女のロマンですよね~。
ロリ系のぶりぶりざえもんな服を着ている人になんとなく憧れたりしませんか?
素敵な洋館に広くて噴水のあるお庭、薔薇の咲き乱れる温室でぶりぶりざえもんなshitoとamuがティーパーチー☆
悪夢か・笑